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「準結晶の発見」にノーベル化学賞!:おめでとうございます、シェヒトマン博士!

みなさん、こんにちは。

いやー、すばらしい。イスラエルのシェヒトマン博士が「ノーベル化学賞」を受賞した。
ノーベル化学賞:イスラエル工科大教授に 「準結晶」発見

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 スウェーデンの王立科学アカデミーは5日、11年のノーベル化学賞を、結晶とも、結晶構造を持たないアモルファスとも異なる第三の固体物質「準結晶」を発見した成果で、イスラエル工科大のダニエル・シェヒトマン特別教授(70)に授与すると発表した。シェヒトマン氏は1982年、液体状態から急冷したアルミニウムとマンガンの合金から準結晶を見つけ、84年に発表した。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれ、賞金1000万スウェーデン・クローナ(約1億1500万円)が贈られる。


準結晶」とは"quasicrystal"(クエサイクリスタルあるいはクワジクリスタル)という英語のものだが、おそらくこれからテレビマスゴミでは、その筋の専門家が呼び出されてある程度の説明が行われるのだろう。が、ちょっと説明すると、こんなものである。

結晶には、1回対称、2回対称、3回対称、4回対称、6回対称のものしか存在し得ない。そういう立派な理論があった。これが固体物理学の基本、結晶学の一大原理であった。「5回対称」は正五角形を単位にこれを組み合わせて、結晶を作る。すると、正五角形では平面も空間も隙間なく埋め尽くすことが出来ない。だから、正五角形を基本単位にする結晶は自然には存在しないと考えていたわけである。

そんな時代に、なんと「5回対称」をもつ結晶

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を見つけたのである。実は自然は不思議なやり方で、その隙間を埋めることができることを示したのである。その隙間をもっと小さな黄金律の比を持つ小さな五角形で埋め尽くすと、再びより小さな隙間が出来る。またこの隙間をもっと小さな黄金律の比を持つもっと小さな五角形で埋め尽くす。こういう方法を再現なく繰り返すと、空間を埋め尽くすことが可能である。その結果、普通の結晶は空間的に周期性を持つが、準結晶は非周期的(準周期的)な結晶を生み出す、ということを示したというわけである。

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普通の結晶成長の方法ではこれはできないが、急冷すると、時にこういうものができるとシェヒトマン博士が発見したのである。

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私の記憶では、この研究が出たのが1984年の秋のフィジカルレビューレター誌であったと思う。これはすぐに一大センセーションを世界中に巻き起こした。そんなわけだから、シェヒトマン博士の研究は発見当時からいつでもノーベル賞をもらってもおかしくはないといわれていたものである

何を隠そう、私のこのブログがQuasimotoとついている理由は、私が阪大の博士課程にいた頃、この「準結晶」の発見が起き、この謎の物質の物性理論をいかに構築するか、この物質の性質をだれが最初に解き明かすか、の一大センセーションがわき起こり、私も大学院生ながら、この未知の物質に既存の物理理論を拡張してゆくことを研究したからである。

そして、この物質の研究をめぐって、私個人の人生もまた「準人生」(ちょっと普通ではない人生)になったというわけである。そういう曰く付きの発見だったのである。私個人にとってだが。

私はこの問題の理論的研究を求めて、会社を辞め、ユタ大学に留学し、そこで「1次元準周期格子」(これは「準結晶の1次元版」)の理論を作って、Ph.D.になったのである。これを基にして、富士通に入り、理研ではこれをDNAやタンパク質の電子状態の問題に応用するために入り、そして、そこから今の生活に入るきっかけができたというわけである。そういう実に因縁深い研究であったのである。もしこのシェヒトマン博士の「準結晶」の発見がなければ、おそらく私は普通の物性理論の研究者になり、普通の物理学者としてサラリーマン研究者か技術者か何かになっていたにちがいない。

「光陰矢の如し」、「少年老い易く、学なり難し」というが、この「準結晶」の研究に向って多くの異なる人生が営まれたはずである。あるものは日本で研究し、あるものは海外で、あるものは海外留学して研究したのである。そういう意味で、確かに一つの時代の終わりを象徴しているように感じる。

さて、このシェヒトマン博士の後には、高温超伝導の発見、常温核融合などの発見が続いた。その直前には量子ホール効果の発見。これらは私の青春期を彩った発見の数々である。あるものは、すでにノーベル賞をとり、あるものはウソだということになったが、物質科学研究の1つの黄金期を象徴したものである。

こういう意味で、私は実に感慨深いものを感じたというわけですナ。

シェヒトマン博士、おめでとうございます。

  by kikidoblog | 2011-10-05 21:07 | 人物

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