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ファミリービジネス7:「瑪瑙(めのう)」に色をつけてカラフルにする

(つづき)

さらに古くなる。昨日こっちを書いている最中にサファリが死んだ。そこで後先になってしまったが、もう一度メモし直すことにする。即興でメモしているので、最初のものとは似ても似つかぬ別物になった。


(き)めのうの色

我が家が甲府市の高畑町に住んでいた頃(つまり、1960年代)我が家の庭先には金魚の池があった。だいたい3〜4mほどの直径のものだっただろう。

はたして何のためだったか?

というと、当時は化学者用のシャワー施設のようなものはまだできるずっと前の時代だったために、危険物を顔や体にかぶった時に水洗いできるようにという目的であった。もちろん、私がずっと大きくなって後で知ったことである。

さて、山梨県甲府の伝統的地場産業である宝石加工業者や研磨業者が扱うのは瑪瑙(めのう)という石である。その原石は見かけは単なる大きな石である。あまり原石を見たことはないだろう。巨大な恐竜の卵のようなものである。それを、山の洞窟の中から掘り起こす。

山梨では古来、そうやって山に穴を掘ってこうした原石が出てきたのである。しかし、採掘しつくして私が子供の頃にはすでにブラジルから輸入していたのである。私が小中学生の頃、こういう原石が木箱にぎっしり詰まった箱がブラジルから送られてきたのである。

だいたいこんなものである。
めのう原石
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めのうは大半は乳白色のものである。むかしは、この石を切断して、その面を磨いて、そこに現れる奇妙な縞網様をみて、楽しんだのである。だからそういうものを「置物」として売っていた。我が家の先々代の時代には大半の甲府の宝石加工業者はそういうものを販売したのである。

そういう原石に時に赤や緑や青などの色が付いたものがある。そうなると、当然、そういった自然に出来た色つきのめのうはとても珍重されたのである。こんな感じのものである。
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ところで、無色透明の水晶になる部分は、原石の中央の空洞の部分に結晶成長する。だから、手のひらサイズの水晶が存在するような原石は稀にしか存在しない。非常に大きなものになる。この原石が人間より巨大なものにならなければ、言い換えれば、原石の中央の穴が洞窟のように大きなものにならないと、巨大結晶
水晶原石(ブラジル・コリント産の逸品)
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は手に入らないのである。だから、貴重なものとなる。

このように、色のついた瑪瑙は非常にめずらしいものである。手に入れにくい。だからこそ、人々が欲しがるのである。

そこで、仮に瑪瑙に色を自由自在につけることができたらどうか? 石を染めることが出来れば、いいのではないか?

甲府の宝石加工業者はそういうことを考えた。それが私の祖父の井口章(故人)であった。爺さんは聞くところでは非常に研究熱心で、日夜研究所で実験をした。私の叔父さんの美一(故人)がその研究熱心さを受け継いだ。

この二人で研究して、ついに白い瑪瑙に色を染める方法を編み出したらしい。それが、「めのうを酸で煮沸する」という方法だった。

赤瑪瑙を作るためには、瑪瑙を塩酸で煮沸する。ぐつぐつ煮るのである。
蒼瑪瑙(緑のめのう)を作るためには、瑪瑙を硫酸で煮沸するのである。
それも何日もかけて煮続ける。実に危険極まりない作業である。
素人さんは絶対に真似をしないようにお願いしますヨ。

しかし、甲府の宝石加工業者はこの方法で色をつけることができるようになったのである。人工的に瑪瑙に色をつけることができるという方法を発見したのである。

私が小学生の頃、工場と工場の間の空間に大きなビンがあったのをよく覚えている。近づいてみると、「硫酸」とか「塩酸」とか書かれていた。純度100%の濃硫酸や濃塩酸である。そのビンをさわってみると、熱かった。水面は波打っていまにも飛び出しそうであった。

こういう危険物を大きなフラスコに入れてバーナーで煮ていたのである。作業は危険きわまりない。手順を間違えば、爆発する。先に宝石を入れ、濃硫酸を入れるか、その逆かで爆破するかしないか決まるのである。

時に煮沸した最中に中の石の色具合を見なければならない。煮沸するわけだから、とうぜんガラスのフラスコの横は曇って見えない。しかたなく、ゴム栓を慎重に外して、中を覗きこむ。そんな時に、上から何かの水のしずくや雨水が一滴たれたらどうなるか?もちろん大爆発を起こす。

非常に稀だが、私の父や母が「やられた〜〜」と大きな声で叫びながら、走ってきて、庭先の池に飛び込む。そんな場面を目撃したことがあったのである。まずは池に入って全身の酸を洗い落とし、池の水道の蛇口で顔を洗い流す。

我が家の池はそういうために作られたのであった。

宝石に色を染める。

これもまた山梨の甲府で生まれた技術、我が家の先祖が発見した方法だったのである。

こういう痛ましい努力の結果、みなさんが身に付ける瑪瑙には赤青緑などさまざまな色がついているのである。


私が阪大の大学院で物性物理を学ぶと、私はこういう方法の原理を理解できるようになった。これは物性物理学者が「色中心」と呼ぶ現象である。結晶内に別の原子の不純物を入れると、そこに内部の電子がトラップされて色がつく。そういう現象である。

赤瑪瑙をつくるために塩酸で煮るというのは、石英の内部に塩化物イオン(Cl^-)を混入することに対応するだろう。緑の瑪瑙をつくるために硫酸で煮るというのは、石英の内部に硫化物イオン(SO_4^2-)を混入拡散することに対応するだろう。こういった不純物イオンが色中心を作り、あたかも乳白色の瑪瑙に色がついて見えるというわけである。

今では青色(ブルー)の瑪瑙もあることから、これも何かの酸で似たのだろうか?おそらく、リン酸あたりで煮るのかもしれない。内部にリン酸化物イオン(PO_4^3-)あたりが入ったのだろう。

我が家の爺さんが発明したこの方法によって、我が家もまたさまざまな色のついた瑪瑙を供給できるようになったのである。




(つづく)



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  by kikidoblog | 2013-11-06 14:41 | ファミリービジネス

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